ヨシダにはオペレーザー03SIISPというマニピュレーターのレーザーがある。これは値段と性能のコストパフォーマンスに優れたCO2レーザーとして歯科界に大きな影響を与えシェアNo.1を取るほどである。
これほどのマニピュレーター技術を持っていたにも拘らずファイバーに挑戦したのはなぜか?
「ヨシダのCO2レーザー」というブランドイメージを壊さずにファイバー型のCO2レーザー装置を開発するには、困難を極めた。次々と立ちはだかる壁を前に、若き技術者たちを奮い立たせたのは、レーザー治療の普及という想いだった。 ファイバー型のCO2レーザーを使いやすそうなイメージだけの道具から、機能的にも幅広く使える本物にしたい。切開性能にこだわった技術者たちの執念が、商品化は不可能と言われていたオペレーザーLite を世に送り出した。
1996年頃だろうか、世の中にはCO2レーザーを透過するファイバーでマニピュレーターのように耐久性、透過性に優れたものは無かった。取り回しの良さという部分ではマニピュレーターに比べファイバーのほうに分があるものの、出血を抑えながらのシャープな切開・蒸散というCO2レーザーの特色を考えたとき、マニピュレーターにはかなわない。
「取り回しの良いファイバーでマニピの様な切開性が得られたら。」
CO2レーザーを作る者の夢であった。
その頃、海外の論文に発表されていた炭酸ガスレーザーの導光路としてこの中空ファイバーを見つけた。
「これだ!これならモードも綺麗なはずだから切開できるはずだ。」
早速、世界中を調べまわって手作りのサンプルを手に入れた。しかし実験ではマニピュレーターとはフォーカス性能の差は歴然ですぐの商品化は困難という結果。
またそれだけではなく、商品化に際しての課題(ガイド光や操作性、安定性等々)も多かった。
「このままでは形にはできても他社のファイバー機と同じになってしまう。やはりマニピュレーターで売ってきたヨシダである。『切開性とガイド光』が無ければヨシダでは無い・・・。」
時代も移り、求める炭酸ガスレーザーのニーズも変化していた。
2000年オペレーザー03SIISP開発途中・・焼畑照射から炭化の少ない蒸散へ。スーパーパルスに加え広い臨床をカバーするのはフォーカス&デフォーカスとなっていた。
その頃ファイバーの研究は入社間もない若手設計者に引き継がれていた。
オペレーザー03SIISP開発と平行に進めていた研究は、この時期やっと実験結果で蒸散・切開性能が臨床に使えるフォーカス性能に近づいたと感じるまでになっていた。
「これならいける。この切開性能なら使える。」
繊細な作業ではマニピュレーターには劣るものの、ライバルには比べ物にならないほどの切開性が得られた。
初めての先生でも扱い易いファイバーで、切開等外科的な処置に十分使える切開蒸散性能を備えたレーザー装置。この圧倒的な優位性を持ってすれば、他社を引き離せる。
その自信が芽生えてきた。
この情報を聞いたある重役の一言。
「今度発売するぞ。できたんだろ、いつ発売できる?」
「えー!!」と若手設計者。
しかし会社というのは非情なもの、設計者の不安とは裏腹にどんどん話が進んでゆく。
プロジェクトとして発足はしたものの、製品化となると最初から問題だらけであった
ひとつはフレームの軽量スリム化という強い要求であった。目標は20Kg以下。
オペレーザー03SIISPは42Kgある。更にオペレーザー03SIIからクーリングエアー用のポンプが搭載され2.5Kgもあり、Liteにもこれを乗せなければならないため、これだけでも他社に対し不利である。
また、オペレーザーNd2(1999年)以来ヨシダのレーザー製品はEMC(電磁波に対する医療機器の適合性)をクリアすることが社内規格で決まっており、その対策も同時に行わなければならなかった。
「スリムにしなければならない。」
フレームを樹脂でカバーすると引け防止のR形状が仇となりボディーが膨らんでしまう。シャープなイメージを出すには・・・。
内部の電気部品も小さく軽いものを選定し、フレームを徹底的に軽量化。そこで強度が落ちてしまうのを、サイドカバーを直線のラインが出る板金にすることにより、梁の効果と電磁波の防御を兼ねることができる。
本体重量19Kgを達成できた。
直径1mmもないファイバーの取り扱いには困っていた。様々なチューブで保護を検討。しかし、折れた時の安全性に問題があった。折れるとそこからレーザーが出て保護チューブを焼いてしまうのである。金属で保護したら安全性は担保できたのだが、ファイバーが重くハンドピースを引っ張られる感が強くなりエアタービンのようには扱えない。
やはり上から吊り下げ、ファイバーの重さを吸収するほうが、取り回しが良い。
そしてファイバーのガイドポールの曲がりや長さ、クリップの位置、ばねの位置、ばねの強さそれぞれのバランスは微妙で繰り返し検証した。気が付けばこのポールだけでも構想から実に9ヶ月は費やしていた。
しかしそこまでしても上顎・下顎とハンドピースを動かすと手首につられてしまう、マニピのようにフリーで回れば・・・。
それができれば中に入っているファイバーへの捻りのストレスも解消する。
炭酸ガスレーザーは目に見えない光であるため、安全に使うためにはガイド光は必須だ。
採用する中空ファイバーは内部コーティングを工夫することでCO2レーザーとガイド光レーザーの2波長をなんとか通すことができることが解っていた。しかし、集光レンズを通すとCO2レーザーとガイド光の集光点に9mm程のずれがでてしまう。
「これでは、軸は合っているもののガイド光を頼りにフォーカスポイントを使うのは困難だ。」せっかくの切開性能が生かされない・・・。
CO2レーザーの波長10600nm赤ガイド光レーザーの波長635nm、この16倍もの波長の違いが焦点位置で9mmの違いになっていた。コストを掛けずにこのずれを補正することはできないか。
「ファイバー同軸をあきらめるか。」一人が言った。中空ファイバーにガイド光を通すというこだわりを捨て、ガイド光を別系統でハンドピースまで導光すれば焦点をあわせることができ、ガイド光をより明るくすることができる。使い勝手を考えれば良いことは明白であった。しかしそれには時間とコストがかかってしまう。
「誰のための機械だ?」
使いやすさを優先し、作り手の論理を並べるべきではない。しかし、社内同意が得られるだろうか?
この問題は発売時期にかかわる問題であったが、開発会議で課長の役員への説得が続いた。
そして遂に、 発売時期をずらしてでも「良いもの作らなければ売れない」という判断からトップの許可が出た。
機構を入れてもハンドピースを太くするわけにはいかない。直径15.8mmの中でCO2レーザーとガイド光を同軸化し、ハンドピース内にベアリングを入れフリー回転させる。
ガイド光の反射ミラーを2mm四方という極小サイズにし、割れやすいZnSe(注)のミキシングミラーの厚さを0.7mmという組み立てには気を使う薄さまで追い込みカートリッジの形にし、ケースとなるハンドピースも肉をギリギリまで削ることで収めることに成功した。
そして、試作品をマニピュレーターユーザーの先生方にもご使用いただき、完成させました。
「マニピュレーターと比較しての物づくり。」
これがオペレーザーLiteです。
注:ZnSe(ジンクセレン…ZINC SELENIDE ジンクセレナイド)は赤外線を透過する結晶材料で、集光レンズ等最も多く使用されている材料。石英に比べもろい材質である。